Une nuit tropique






「暑い……」

 ぼそりと呟いて、花は身を起こした。
 先程までは寝ていたような気がしたが、ぐっすり眠れた気はせず頭の芯が重かった。
 寝苦しさの原因は暑さによるものだと自覚し、その暑さの元をちらりと視界の端に入れる。
 自分の横で眠る、半裸の仲謀。
 先程まで彼にくっついていた為、暑くて目が覚めてしまったのだ。

「うー……。このままじゃ眠れない、よねぇ……」

 次の日学校だからと頑張って眠ろうとしていた元の世界と違い、こちらでは花がだらだらとしていても何の問題もなかった。
 しかし、全ての人が忙しく働いているこの仲謀軍でのんびりと午睡をする勇気はない。問題はなくとも、嫌味を言う輩も多く彼らに隙を見せることも好ましくない。
 そうなると、きちんと睡眠を取ることは重要だった。花はしばらく考えた後、寝台の下に散らばった衣服を静かに集めると、音を立てないように寝台を降りようとした。

「……どこ、行くんだよ」

 その瞬間、まだぼんやりとした言葉が耳に届き、同時に手首を掴まれる。
 見れば、先程まで寝息をたてていたはずの仲謀が、しっかりと目を開け強い力で彼女の手首を握っていた。

「仲謀……お、起きてたの?」
「今起きた。で、どこ行くんだよ」

 欠伸をひとつ噛み殺しながら、仲謀は空いている手で目を擦る。そうするとぼんやりとしていた声は少しずつしっかりとしたものになってきた。

「自分の部屋に戻ろうと思って」
「何でだよ。ここで寝たらいいじゃねぇか」
「……だって」
「ここにいろよ」

 妙に色気のある声を出され、花の鼓動が大きく跳ねる。
 しかし暑さを自覚した後では、このままここで過ごしてしまおうという誘惑に乗ろうとは思えない。
 黙っている花に業を煮やしたのか、仲謀がもう一度名前を呼んできた。

「だって、暑いんだもん」
「は? 暑い? そうか? 今夜はそんなに暑くないだろ」
「違うよ、暑いのは仲謀の体。体温高いんだもん、くっついて寝てたら暑いの。だから、眠れなくなっちゃう」

 素直にそう告げると、仲謀の眉が不機嫌そうにひそめられた。
 
「別に俺は体温高いわけじゃねぇよ。おまえが低いだけだろ」
「違うよ、仲謀が高いんだよ」

 自分が悪いとばかりに言われ、花は唇を尖らせる。
 体温計がないこの世界に生きる仲謀とはい違い、花は体温計で自分の体温を把握している。現代の若者に多い低体温症は彼女には当てはまらず、平熱は36.5度前後だったので、決して低いわけではない。
 彼女がくっついていて暑く感じる仲謀は、絶対に37度近くの体温があるに違いない。元気そうな様子を見れば微熱があるわけでもないようなので、きっとこれが彼の平熱なのだろう。

「仲謀はやっぱり子どもと一緒で体温高いんだね」

 溜息混じりにそう言うと、仲謀の目が鋭く細められた。
 
「……誰が子どもだって?」

 低い声がし、握られたままの手首を力任せに引っ張られる。
 体勢を崩した花はそのまま寝台へと倒れこみ、その上へ仲謀の体が圧し掛かる。
 何も身に着けていない肌同士が合わさり、互いの体温が直に伝わる。
 やはり仲謀の体は熱かったが、花がそれを言う前に仲謀の唇が彼女の口を塞いだ。
 最初から唇を割られこれまた熱い舌が咥内へ滑り込んできて、押し返そうとする花の舌を絡めとり吸い上げる。どちらのものとわからない唾液が唇の端から零れ落ちた。
 呼吸をも貪り取る口付けに苦しくなり顔をそむけるが、仲謀はそれを許さずしつこく花の唇に喰らいつく。

「ふ、あ……ぁ」

 激しい口付けに半ば酸欠状態になり、花の体から力が抜ける。
 それを確認した仲謀は、ようやく口付けを止めた。
 しかし花がほっとする暇はなく、唇から離れた仲謀のそれは彼女の首筋へと移動する。
 昨夜つけた痕をなぞり再度吸い上げられ、花はたまらず背をそらした。
 乳房が突き上げられる形になり、今度はその中心へ仲謀の唇が降りてくる。
 乳輪ごと吸い上げたかと思えば、先だけを弄るように舐めらる。乳房の先は痛いぐらいに固くなり、耐えられない衝撃に花は何度も頭を振った。

「や、やだ、仲……謀……」

 涙が滲んだ目を向けると、顔を上げた彼が意地悪くにやりと笑った。
 
「これでもまだ子どもって言うのか?」

 偉そうに言う仲謀に、花はむっと顔を曇らせる。

「そう、いうところ、が、子どもっぽいんだよ……っ」

 乱れる息の中で何とかそう言うと、仲謀の顔も険しくなっていく。
 
「……へぇ、そうかよ」

 低い声でそう言いながら、仲謀は勢いよく花の足を大きく開いた。
 花が抵抗する前に足の中心へと手を滑らせ、長い指を亀裂に這わせると、暗闇の中に大きな水音が響いた。
 その音に花は思わず目を閉じる。

「子ども相手に、おまえはこんなに濡らすのか?」
「あ、や、やぁ……っ! そ、そうやって、むきになるところ、も、子どもだよ……っ」
「……言ってろ」

 仲謀の指が花の中へと埋め込まれる。何の抵抗もなく入っていく感触に、花の羞恥心が一気に高まる。
 まだそんなに愛撫されているわけではない。寝起きで体の反応が違っているのか、それとも仲謀の愛撫に馴染んできてしまっているのか。どちらにしても、以前とは違う自身の体に花は戸惑いを覚えた。
 指の根元まで咥え込んだ花の中は、まるで別の生き物のように仲謀の指を締め付け、更に奥へと引き込もうとする。
 それに答えるように、仲謀は彼女の中に入れる指を増やし、空いている指で半ば立ち上がっている花芽を刺激した。

「ああぁ……仲、謀……や、う……」

 花の中から、とろりとした液体が零れ落ちた。

「俺のが出てきたな」
「いわ、ないでぇ……っ」

 指についた昨夜の残滓を、仲謀は嬉しそうに花に見せる。
 その顔には先程までの色気は微かにしか残っておらず、自分の手柄を見せたがるガキ大将の顔に変わっていた。
 しかし今の花には、もう子どもっぽいと言えるだけの余裕は残されていなかった。

「仲謀、仲謀……」

 快楽に染まる体を捩り、花は愛しい人の名前を呼んだ。それに答えるように、仲謀は軽い口付けを唇に落として彼女の足を肩にかついだ。

「や、こ、こんな格好……!」

 高く持ち上げられた体は半分が寝台の上から離れ、ひどく心許なかった。そしていつもは見えない交合部分が花の目にもはっきりと映り、彼女の羞恥心を最大に広げた。

「よく見とけよ、俺様と繋がるところを」

 そう宣言し、仲謀はゆっくりと自身を花の中へと埋め込んでいく。
 彼の逞しいものが自分の中へと入り込んでいく光景は淫猥かつ官能的で、花はそこから目を逸らす事が出来なかった。

「入った……の……?」
「ああ。見てみろよ」
「え、あ、やぁぁ……っ」

 一度入ったものが、引き抜かれる。花の生み出す液体でぬらりと光った仲謀のものは、外れそうなぐらい引き抜かれた後、再度力強く埋め込まれた。
 そこからは止まることなく、何度もそれが繰り返される。
 暗闇が支配する部屋には、肌と肌がぶつかりあう音と淫猥な水音、そして二人の漏らす熱い息が響いた。
 
「や、ぁぁぁ……仲謀、もっとゆっくり、ぃ……っ」
「……悪い、止まらねぇっ」

 仲謀の凶暴な切っ先が、花の子宮口を何度も刺激する。接合部分から溢れた液体は、彼女の尻を伝い寝台へと流れ落ちていった。
 生理的な涙が目尻から落ち、体が限界を知らせる。頭を振って快感を逃そうとするがうまく行かず、花は大きく体を震わせた。

「く……っ! お、おい、花、しめ、すぎだ……っあ、ああっ……!」

 悔しそうな仲謀の声が聞こえたと同時に、花の再奥に仲謀のものが勢いよく叩きつけられた。
 その感触に酔いながら、花は意識を手放したのだった。



「……暑い……」

 再び暑さで目を覚ませば、やはりその体は仲謀に抱きしめられていた。
 外そうと試みるも今度は容易にはいかず、彼の腕は花の体に巻きついたまま離れようとはしなかった。
 
「え、ちょっと、嘘でしょ」
「……ん、花……」

 抱きしめられたまま暴れる花の体を、寝ぼけたままの仲謀が更にきつく抱きしめなおし、体に回された腕の他に彼の足までもが彼女の体に巻きついてくる。

「だ、抱き枕じゃないんだから……!」

 体に感じる温度はどんどんと暑くなってくる。しかし花が暴れれば暴れるほど、くっついている仲謀の体は逃がさないように力をこめる。
 金色のまつげに縁取られた目は一向に開く様子はないので、これが無意識の行動だという事はよくわかっていた。

「も、こんなの眠れないじゃないー……」

 そう呟く花の後ろで、暗かった部屋は少しずつ明るくなっていき夜があけつつあることを知らせていた。
 予想通り寝不足になり、嫌味こそ言われなかったが大喬小喬に散々からかわれた花が、当分の間仲謀と床を共にしなくなったのは、言うまでもない。







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仲謀が体温が高いというのは私の捏造です。やっぱりおこさまだから高いのかなぁと想像してみました。